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【書評】Gene Mapper(ジーン・マッパー)の未来は「風の谷のナウシカ」につながるか? -full build-

※例によって、旧ブログからの転載です。

※注意!この記事は、「Gene Mapper」及び、コミック版「風の谷のナウシカ」の重大なネタバレを含みます。特にナウシカ未読の方はご注意。

<目次>


スマホで書かれたSF小説Gene Mapper(ジーン・マッパー)」


Gene Mapper」とは?

農作物の多くがメーカー製の「蒸留作物」に置き換えられつつある2037年。

作物の遺伝子をマークアップし、外観を設計するスタイルシート・デザイナー、林田のもとへ「ジャパニーズ・サラリーマン」を演じる黒川から調査依頼が入った。

…という、なんとも不思議な設定からはじまるSF小説が2012年後半、注目を集めました。

Gene Mapper – Official Web Site

book.asahi.com

注目を浴びた大きな理由は、これが一個人が執筆・製版・流通・宣伝戦略に至る全ての工程を行って誕生した電子書籍であるからです。

この点については正直「ハードル上げてくれちゃったなー」と思わざるを得ないなあと。
というのは、全ての工程に渡って、プロフェッショナルな仕事をしている。

Web上では「個人でここまで出来るのか!」という声と、「ここまでやられちゃ、安易に後に続けないよ…(´・_・`)」という声が入り混じりました。
また、多くの識者が、個人の情報発信の可能性を示す作品として、この作品を取り上げました。

さて。
そんな話題作が、内容1.8倍増量と大幅に改稿した書籍版Gene Mapper -full build-」として出版されました。そこで改めて、前述した話題性の部分から離れて、一個の純粋なSF作品としての「Gene Mapper -full build-」について、語ってみたいと思います。


セクシーさも1.8倍増量中。

以前電子書籍版の書評を書いたとき、
「もっともっとセクシーな小説に成り得たはずだ」
と書きました。

端正な文体からにじみ出る、上品なセクシーさ。
この作家の、ひとつの魅力だと思います。

この文体で、あと少しだけロマンスも描いてくれたら。
そんな私の声に応えたのかどうかはともかくとして、今回は女性キャラも増え、既存の女性キャラも若干性格などを変更した部分もあり、魅力が増しています。

これは、人物描写を大幅に増強したことが大きい。

電子書籍版はハイスピード・ノベルという謳い文句で、丹念な描写よりもリズムカルで勢いのある筆運びを重視していた感がありますが、full buildはひとりひとりの登場人物をじっくりと描写していて、それが更なる魅力を生み出しています。

電子書籍版はおっさんばかりが大活躍するおっさん好きのためのおっさん小説、とも言われましたが(汗

full buildはそのおっさんたちですらセクシーさ1.8倍増量です。
これも、じっくりと人物描写に枚数を費やした効果ではないかと。


風の谷のナウシカ」を知っていますか?


コミック版「風の谷のナウシカ」のあと味の悪さ

ところでとつぜん話は変わりますが、みなさんは、風の谷のナウシカ」という作品を知っていますか?

「あ・ほ・か!知らんやつを探す方が、むずかしーやろ!」
…と、思うでしょう。しかし、コミック版を読まずして「風の谷のナウシカ」を、知っている、なんて言ってはいけない
いいですか、「いけない」んです。

コミック版では、最終的に、腐海も、王蟲も、その周辺の人間までもが、遺伝子工学の産物であるとわかる。汚染された大地を浄化するため、人工的に作り出されたものだった…。

世界が浄化されたあとでは、腐海王蟲も消えてしまい、人間は、ひそかに隠された旧世紀の遺伝子工学の力を借りて再び身体を改造しなければ、生きていけない。
(…って、いうんだけど。実際は、抹殺されるんだろうなぁ…と)

ナウシカは、これを知って、非常に怒るんですね。
怒りに駆られ、戦いの末に、隠された旧世紀の遺伝子工学を、破壊してしまう。

これ、読んだとき、悩みましたねー。
特に言及はされてないけど、これって、つまりナウシカの個人的な怒りによって将来的に、人類は滅亡することになんじゃね?
(※その遺伝子工学の技術が無いと、何千年かたって浄化されてしまった世界では、人類は生存出来ない)

遺伝子工学によって腐海と、人類を含むその環境に最適化された生物群を生み出した旧世紀の科学者達は、人類の永遠の繁栄を願う、善意の人たちだったのでしょうか。
善意ならなんでもやっていいのだろうか?

目的の為に、恣意的に「生み出された」人間たちが、その事実を知った時に怒り狂う可能性も考えていたからこそ、その情報は隠されていたのではないか。どこか後ろめたさがあったから、その隠し場所に、攻撃に対する防御施設を備えたのではないのか?


「そうするしか、前に進む方法がないからだ」

現実世界のこの2017年においては、地球規模で「農業の工業化」が進んでいます。

好むと好まざるとに関わらず、科学技術の積極的な応用で、農業人口を減らしつつ農業生産性を劇的に向上させる。
その流れに乗らなければ、飢えと貧困に苦しむ沢山の人々を、その苦しみから解放することは不可能です。

  • 地産地消は自給自足のことだろうが、山がちな日本の狭い農場で、年に一度しか収穫できないイネでどれだけの食糧が生産できたというのだろう。 -
    (第四部 未来の顔 14 Fear Report より)

またその一方で、そうした農法に対する多くの日本人の抵抗心。敵愾心。
そういうものを考えれば、本作、full build版のゴーフのような人間をより現実的な人物として感じ取ることができるでしょう。

本作にはいくつかの、遺伝子工学によって”設計”された動植物が登場します。特に蒸留作物、と言われるイネのシリーズは重要。この世界では過去にイネの伝染病によって東アジア全域で稲作が壊滅しています。…って話が単なる背景としてあっさり書いてありますが、これ、現実世界で起こったら大変な危機ですよね。

そんな危機に立ち向かい、多くの人を飢えから救うために開発されたのが、遺伝子工学によって生み出された、新しいイネ…。まったくもって、これは善意から生み出されたものであります。

主人公・林田護は、詳細は省きますが、終盤、大きな決断をします。
これによって、この世界の遺伝子工学はまた、新たなステージへと向かうことでしょう。これも、善意の決断です。
リスクがあっても、前に進む。そういう、強くて優しい善意。

未来を信じて。技術を正しく使おうとする、世界中の人々の「善意」を信じて。




しかしその「善意」は、もしかしたら何千年か後に、ナウシカの怒りを買うのではないか?
「生み出された人間たち」「用が済んだら消滅させられる生命たち」を、作り出す技術の元になるのではないか?


世界をひと色に染めんとするものたち。


ナウシカの「怒り」の本質は何か?

コミック版ナウシカの結末には批判的な意見が多い、んだそうです。
しかし、…果たしてナウシカの「怒り」は、どれだけ理解されているのだろう、か。

漫画版「風の谷のナウシカ」のラストについて : 情報学ブログ

上記エントリーはかなり哲学よりの内容で難しいけれども、このラストで描きたかったことは、ナウシカのこの行動が正しいんだ!ってことではなく、要は「ジレンマ」ではないかと思うんです。

生命という、矛盾に溢れた、ジャンクコードだらけの存在。
それが、絶対者を名乗る一面的な論理の施行者たる「墓所の主」たったひとりにコントロールされる…。

断罪されているのは、遺伝子工学の是非、なんて単純な話じゃない。特に、ナウシカ自身も遺伝子工学の子ども、という矛盾を抱えている以上は。


新説「腐海は、バイオテロによって生み出された」?

ここで、あるひとつの仮定を考えてみましょう。

もしも、腐海をはじめとする生体浄化システムを作り出した原因が
バイオテロだった」
と仮定してみたら、どうだろう?

そう、まさか、世界中の人が一致団結して民主的な手続きを経て
腐海を繁殖させて地を埋め尽くそう」
とか、決めたわけじゃないよね?そうだとしたら、世界の全ての人がその事実を知っているハズ、いくらなんでも、その情報が全く消えるなんてありえないよね。

つまり、誰かが、黙って、勝手に、腐海をはじめとする生体浄化システムをばら撒いたんだ。そう考えたほうが実は、自然だ。
そして、それに対応すべく生体改造をほどこした人間たちだけが生き残った。おそらく、瘴気の病の治療、なんて名目で、真の目的は隠して生体改造を行ったんだろう。

いろいろ御託を並べてみても、それを客観的に見れば「バイオテロ」という。

バイオテロ、と考えると、とたんに構図がわかりやすくなる。例えば、Gene mapperバイオテロの首謀者が、もしも一万倍くらいアタマのいい奴だったら。そして、世界を天然自然な状態に戻す、という偏った理念の為には、現生人類の抹殺くらい厭わないほど、過激で冷酷な奴だったら。

<作り物>に頼らなければ生きていけない人類。それを汚れたものと一面的に断罪し、浄化するために、浄化システムをバイオテロで放つ。その結果生み出されたのが、ナウシカの世界だと考えてみよう。
あなたは、そんな世界を許容出来るか?その「浄化」とやらの最終仕上げを行う機関たる「墓所の主」の存在を、受け入れられるのか?なにしろ、そこで浄化される対象になってるのは、現在のあなた自身ですからねー。

墓所の主」が言っていることは、一見もっともらしい。だからこそ寧ろそちらを擁護し、それを破壊したナウシカを批判する声が多いのだろうけど、でも、
腐海バイオテロによって生み出された」
と仮定しちゃえば、根本からハナシが変わってしまうんスよ。とたんに、「墓所の主」がナウシカに言ってることが

「俺たちのバイオテロはもう最終段階に来てしまったからには、これを中途半端に止めたらもう人類滅亡ってことになってしまうんでぇー、悪いんだけどぉ、もー、最後までやらせてくだせえよ、このバイオテロ

って文脈に変わってしまうんでして、もうそこまで文脈が変わってしまったら誰もがもう

「お前のせいやないかぁーい!!」

と、吉本のノリでツッコミを入れてしまうこと、確実なわけでして。

吉本のノリでツッコミせずとも、「墓所の主」をバイオテロの首謀者の末裔と考えるととたんに<絶対者>の仮面が剥ぎ取られ矮小化されてしまう、そして、彼がナウシカに向けて放った言葉が全て、「恐怖を人質にするホイッスル・ブロワー(笛吹き)」に思えてくる。

やってることの規模は大きくちがうが、「墓所の主」の言葉と、ジャーナリスト、<ワールド・レポーティング>のサーシャ・ライフェンスの虚仮威しの仰々しいコメントと、本質は何がちがうのか。

そこまで考えてしまうと、実は、ナウシカと林田は、同じ敵と戦っている。


ナウシカは「林田の善意」を認めるか?

善意といっても、いろいろあるなあと。
いきすぎた善意は「”悪”の断罪」という機能を、持ってしまう。

林田の決断。

バイオテロを暴きたかった?それも勿論、目的だったでしょう。 しかしそれだけではなく、彼はきっと、世界を変える力を持った新しいテクノロジーが、ある特定の組織のみに使われることを嫌った。一面的な善意で、一面的に世界が変えられてしまうことを、危険だと思った。 たぶん、直感的に。

遺伝子工学の力を信じるもの。 遺伝子工学の力を破壊するもの。

真逆の存在に見えて、実は、両者には通じるものがある。

未来の可能性を見つめるもの。 虚無の深い穴を見つめるもの。

真逆の存在に見えて、実は、両者には通じるものがある。

「一面的な意思を否定する」ということだ。

ナウシカは、「墓所の主」という存在と、そこに隠された遺伝子工学の技術を、認めなかった。破壊しつくした。 しかし、林田という一見自分の立場と相反する人間の存在は、受け入れるのではないだろうか、矛盾と混沌を受け入れることと同じように。


最後に、蛇足。

「虚無だ!!それは虚無だ お前は危険な闇だ 生命は光だ!!」
「違う いのちは闇の中のまたたく光だ!!」
「すべては闇から生まれ闇に帰る お前達も闇に帰るが良い!!」
(コミック版ナウシカ最終巻より)

虚無をおそれない。ということ。

闇から生まれたものは、闇に還ることを恐れない。 光から生まれたものは、闇に消えることを恐れる。

でも、光もまた闇から生まれたものであると気づけば、光から生まれし者たちもまた、闇を恐れることをやめるだろう。

…なんの脈絡もなく、そんなことを考えていました。 このエントリーを書きながら。

では、闇の中でサヨウナラ。

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