「教師びんびん物語」はトシちゃんが地上げ屋と闘うドラマだった。

 

この役について田原は自伝に<従来の教師にありがちなイメージとは反対に、ひょうきんで熱血あふれた教師役の僕にプロデューサーは賭けた。結果的に意表をついたその設定は好評を博して>と書く。
(中川右介・著「月9 101のラブストーリー」より)

本日は、1988年の大ヒットドラマ「教師びんびん物語」のお話でーす。

〈目次〉

「徳川龍之介」って、誰?

前回記事で私は、サラッと流す感じで「そして私の中では、その熱さが、あの”徳川龍之介”のイメージと重なってきています。」と、書いたんですが。

徳川龍之介って、誰やねん!

徳川龍之介とは、月9ドラマの「びんびんシリーズ」の中で、トシちゃんの愛称で親しまれる、田原俊彦さんが演じたキャラクターです。

このドラマの中では貧乏教員、という設定ですがどう見てもブランドもののスタイリッシュなスーツをカッコよく着こなして授業している点から考えて、単に着道楽なんだと思います。

スタイリッシュな熱血教師、でもシリアスにはならず常に明るく、ひょうきん。このキャラクターは、アイドルとしては円熟の年齢に達したトシちゃんのパブリックイメージとも見事に重なり、大人気キャラクターとしてブレイクしました。

シリーズものだが”シーズン制”ではない

教師びんびん物語」、「びんびんシリーズ」の中では2作目にあたります。

そもそも当時の月9は「業界ドラマ」という枠でした。当時流行ったマスコミ業界を舞台にしたドラマを放送する枠であり、その中に、「ラジオびんびん物語」がありました。

このドラマがそこそこ好評だった(主題歌は売れず、トシちゃんははじめての紅白落選という結果に落胆したが)ので続編を…ということだったので次はどんな”ギョーカイ”が舞台なのかな?と思ったらよもやの「教師」だったので確かに完全に意表を突かれ、どんなドラマになるんだよ!見なければ!と強く興味を惹かれた記憶が鮮明にあります。

全く異質のちがう舞台に持ってくるので、思い切りよく前作との繋がりはスパっと切り、「登場人物の構成のみ継承したパラレルワールドとなり以降のシリーズもそのパターンは継承されます。つまりストーリーに連続性がある「シーズン制」ではない。

シリーズに共通している要素は、徳川龍之介と、野村宏伸さん演じる「榎本」とのバディもの、ということです。そしてそこに歳上の憧れの女性「響子さん」が絡みます。

※ちなみに「響子さん」を演じる人は毎回ちがいます。「ラジオびんびん物語」は池上季実子、「教師びんびん物語」は五十嵐淳子、「教師びんびん物語2」は梶芽衣子

ストーリーの根幹に関わる「地上げ」

だいぶ前置きが長かった。ここからようやく本題です「えっ」

びんびん物語かあ、懐かしいねえ。と言ってる人もみんな、実はどういうお話か完全に忘れているはずです。
以下、ちょっと長めに、前述の「月9 101のラブストーリー」よりの引用です。

 若い教員「徳川龍之介」はボロアパートに住んでいたが地上げにあい、追い出され、日比谷公園で野宿するはめになった。(中略)学校は、都心の人口空洞化によって生徒数が激減しており、廃校になる寸前だった。生徒たちの家も地上げにあい、転校していく子が多い。そのため教員たちもやる気がない。
 地価が高騰していた当時、土地を持っていれば一年後には倍以上になった。その土地が広ければ広いほど坪あたりの単価は高くなる。そこで、地上げ屋が横行し、強引に土地を買いまくり、売るのを拒む地主にいやがらせをすることが問題となっていた。そういう社会的問題を背景にした「熱血教師」ものだった。
(中川右介・著「月9 101のラブストーリー」より)

「そのため教員たちもやる気がない」、どのくらいやる気がないかというと、今は亡き萩原流行さんが職員室で堂々と居眠りぶっこいてて、終業のチャイムがなったとたんに飛び起き、「バンザーイ!5時だ!5時だ!」と叫ぶなり銀座の街へ消えていく、というレベルです。

余談ですがこのドラマの後に高田純次さんの「5時から男のグロンサンというCMが大ヒット、「5時から男」はその年の流行語大賞をとりました。なので歴史的評価としては「5時から男」という言葉はCMが語源とされていますが実は、このCMの前から「5時になると急に元気になる人」は、この時代のあるあるネタ、だったのです。

24時間戦えますか、のモーレツ時代かと思いきや、実は割とのんびりした空気感だったこの時代です。そこに、熱血教師トシちゃんが乗り込んできて引っかき回す、その面白さがありました。

地上げ、って、何?

と、ここまで書いたら実はもう書くこと、ホントはないんですよ。タイトルにある”「教師びんびん物語」はトシちゃんが地上げ屋と闘うドラマだった”って話をして、ああ、そうだったそうだったよねー、って話で、終わりなんです。が。

ここで、40代以上の方に、衝撃の告知をせねばなりません。

多分ね、
「今の若いコに”地上げ”と言っても、なんのことだかわかんない」 んですよ!

「……………えええええええええええ!!((((;゚Д゚)))))))」

今、私と同年代の人の多くがショックで昏倒したことと存じます。先の引用で「強引に土地を買いまくり、売るのを拒む地主にいやがらせをする」とあります。まあこの説明が”地上げ”のすべてなんですが、それが何で、ドラマの悪役になるくらい社会問題化していたかが、たぶんピンとこないと思うんですよ。

いやがらせ、っていうとなんか脅迫めいたこと言われるとか、かな。と思いますでしょうか。ええとね、例えば小さな、つつましく経営してる花屋さんとかあるとしますね。そこが、いやうちはこの花屋、売りたくないんですけどぉ…とか、言うじゃないですか。

…トラックが突然突っ込んできて建物がめちゃくちゃに壊されて「いやあ、わりぃわりぃ、運転誤ったぁ」くらいは日常茶飯事です。

いや、マジで、犯罪まがいどころか完全に犯罪でしかない「いやがらせ」が横行していたのがこの時代です。いやでしょ、ヤクザに逆らった家にトラックつっこんでくるのが、日常茶飯事って。昭和はいい時代ですね。

バブル、といって華やかな時代を想像するのは、一面的な見方です。それだけ、荒々しい時代でもあった。そして、経済は好調で後の時代から見たらぜんぜんいい時代だったのに、多くの人々が「儲かっているのは金持ちだけ、我々庶民はおいて行かれ、損をするばかり」「あの金持ちども、ぶっつぶれねえかな」と思っていたのがあの時代の空気です…

あれ、なんか今の時代と似てません?「金持ちども」がぶっつぶれちゃったら庶民もひどい目に会うって、30年前にみんな、痛い経験、したハズなんですけどねえ…。

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