伝説の大Z級博多ムービー「ちんちろまい」を君は知っているか。知っているなら今すぐ忘れろ

 

かつて、博多を舞台にした映画「ロッカーズ」が公開されたとき、私は、不安で不安で不安でたまらなかったものです。なぜかというと、われわれ博多人には、「ちんちろまい」という、重いトラウマがあったからなのです…。

<目次>


「博多を映画の街に」熱い想いのサイアクの結末。

2000年に公開された映画「ちんちろまい」。それは、はじめて博多を本格的に舞台にした、博多ムービー。というふれこみの映画でした。

「福岡を、本格的な映画の街にしよう!」と叫ぶ人々の手によって、この映画の製作はスタートしました。地元の人々はみな 「博多の活性化につながることなら…」 と、喜び勇んで協力したものです。

地元企業が協賛し、さまざまな地元の有名施設はロケ場所を提供し、博多出身の芸能人はみな、出演を快諾。人々は、ボランティアで積極的に雑務を手伝い、出たがりの人は、すすんでエキストラに参加しました。

私の友人もエキストラに参加するなど、私の周りにも、その盛り上がりは波及してきました。地元の人々が一体となって映画はついに完成!し、そして、

…だれもが、絶句した。

…なんだ?これ(´・_・`)


予想できたハズの無残な結末。

冷静に考えれば、博多を舞台に地元出身の出演者だけで撮影した映画で主演は武田鉄矢たったこれだけでまあどんな映画なのかだいたい予想がついてしまうわけでありまして、それ考えたら、企画段階でこの、無残な結末は、本来予想できなければならない、ハズなんですが。

武田鉄矢「これは違うんじゃ…」

なんだよこれ!!!(怒)。いろいろな、博多の名所やら風俗やらを、やたらめったら盛り込みすぎて、ひたすらまとまりがない。要するに博多人の内輪ウケ映画ですよ、これは。悪いことにあまりに内輪ウケすぎて、
内輪ですらついていけない。

Wikipediaのあらすじ見てるだけで何がなんだかわからんうちに疲れてきます。
ちんちろまい - Wikipedia

主人公がアクロスから出て来たハズなのに、中洲を背に天神側へ福博であい橋を渡って、そっから川端通りを抜けて櫛田神社に行くという不自然な行動はなんなんですか!

火曜サスペンス劇場でよくありましたよね。地方を舞台に逃げ回る犯人がむりやり名所をめぐるアレ。ベタすぎて、いまや火サスでもなかなかやらないアレです(´・_・`)


博多の街は、絶望の底に沈んだ

たんなる地元の名所紹介だったら、ゴジラ映画みたいにぶっ壊してくれた方が、まだよかったわけで。あれは、ぶっ壊す対象として突き放して描いている(←ここは重要ポイント)からいいんであって、
「ほら、みんなの大好きな博多の街が、こーんなに映ってるよ!!(≧∀≦)」
というバリバリの内輪ウケスタンスで描かれたんじゃあ、見てる地元の人間は、むしろつらすぎる。

ま、私的には、後藤理沙がかわいかったから、それでいいんだけどー「でたなアイドルオタ(´・_・`)」

この、凄惨すぎる大失敗映画を前にして、博多人はみな、キョーフで動けなくなりました
「博多を舞台にした映画」この言葉を聞いただけで、だれもが耳をふさぎ、金切り声で悲鳴をあげるようになりました。「博多を映画の街にする」どころか、だれもが、「”博多を舞台にした映画”なんてものを、早く忘れよう」と、忘却の砂漠をさまよいました。


絶望からの復活「ロッカーズ

そんなわけで2003年、地元番組などから、またも博多を舞台にした映画「ロッカーズ」が撮影快調!と聞いて、とてつもなく不安になったものです。

だって、カントク陣内孝則ですよ?武田鉄矢よりもはるかに陣内孝則な、アノ、陣内孝則ですよ?

「すいませんちょっと何言ってるのかわからないんですが…(´・_・`)」

ところが、心配は杞憂に終わりました。

例によって地元出身者大量出演(苦笑)なのですが。しかし、主演陣は全員、福岡以外の出身です。しかも中村俊介玉木宏岡田義徳佐藤隆太塚本高史など今をときめく、当時は売り出し中の新進気鋭の若手だった精鋭メンバーたちです。

そうです。当てに来たのです。プロフェッショナルとして完全に当てに来たのです。そもそもこの映画は陣内氏が亡き友人であるバンドメンバー谷信雄さんへの想いから企画を立ち上げたものです。死んだ友人への、深い想い。「ちんちろまい」のようにコケるわけには行かなかったのです。玉木氏塚本氏が劇中で使うギターは、谷氏の遺品だったそうです。「ちんちろまい」みたいなお遊びではなく、死にものぐるいの本気だったのです。

結果、映画は好評価を得、当時ブレイク中だった主演陣にとっても、出世作のひとつとなりました。ヒットのために、「博多」への過度なこだわりから一歩引いて、冷静に必要なキャスティングを行ったことが勝因ではなかったでしょうか。


「映画の街 博多」のあるべき姿とは。

福岡市経済観光局コンテンツ振興課によれば、平成28年度の映画ドラマなどの撮影支援件数は実に96件になります。ロケを実施した映画は「君の膵臓をたべたい」など、もはや博多関係ない映画ばかりです。さらに、韓国・中国といった外国作品も11件含みます。

福岡フィルムコミッション News Release(PDF)

そうです。いまやようやく、博多の街は胸を張って「映画の街」と言えるレベルになってきました。そしてくどいですが、そこに、「博多大好き博多ムービー」などという自己満足はすでに影も形もないのです。

これは博多に限らず、あらゆる、地場産業を振興したい地方にいえることです。郷土愛などという自己満足は、いらない。官民一体となった熱い想い、なんてものもいらない。むしろ、ジャマ。必要なのは、冷静に突き放したプロフェッショナルな仕事、だけなのです。

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