「アベガー」とはなんだったのか

”デイジー、デイジー、答えておくれ。君への愛でおかしくなりそう”

おおむね時代に迎合するタイプだ。なので、民主党政権となったとき、たまたまSNSで仲良くしていた今でいうインフルエンサーのみなさんが、やった、ついにやったぞ、これでこれからの日本はよくなる、時代は変わった、万歳、ばんざーいと大はしゃぎしているのを見て、そうですね、そうですねと、お追従を言っていた。今にして思えば、大きなまちがいだった。

やがて安倍政権となって、彼らの言動は、みるみるおかしくなっていった。

本来、幅広く柔軟な知性を持ち、あらゆる事象をバランス感覚とユーモアで楽しくとらえる達人ばかりだった。だからこそ仲良くなったのだ。それがアベのこととなると急に、別人のように異常な言動をくりかえすのだ。

最初は、いつものキツい冗談か。と思い、いつものようにおちょくったり、まぜっかえしたりするリプを送っていた。いつもなら、それに思わずうなる斜め上からのユーモアを返してくる彼らが、まじめに怒ったり、私の諧謔を真に受けて、そうかわかってくれるか。アベは、本当に憲政史上サイアクの極悪人だから、いつか誰かが必ず殺さなければならないのだ。と、せつせつと訴えかけてくる始末だった。そんな彼らにだんだん私も「キモ」以外の感想を持てなくなり、関係は、自然に消滅していく。

正直に言う。私自身も「アベがすべて悪い」と考えた時期があった。あんなに楽しい友だちたちを、なぜ、なくさなけばならなかったのか。アベが悪い。まったく理解できないが、わたしらごく普通に生きている平平凡凡人たちにはわからない何か…彼らを狂わせる何かが、きっと安倍晋三という政治家にあるにちがいない。本当に、彼らは、アベのこととなると、神経症におちいりディスカバリー号の乗組員を殺そうとしたHAL9000型コンピュータのように、リクツのあわない言動をくりかえすのだった。デイジー、デイジー、君が好き(そんな歌詞だったっけ？

あるいは、彼らがおかしくなる理由を、真剣に考察してみたこともあった。彼らはきっと、あのヒッピー政権…もとい、民主党政権がなしとげるはずだった「リベラルな感性で、バブル崩壊でおかしくなった低迷日本を立て直す」という夢を、尻切れトンボで奪い自分の功績にしてしまったオトコが憎いのだ。俺たちの夢を返せと。このリクツなら、安倍元総理が功績をあげればあげるほど彼らが狂っていく説明は、つきそうな気がする。あるいはもっと単純に、憲政史上初の「改憲を本当になしとげそうな総理大臣」に、おびえていただけかもしれないね。日本国憲法は彼らの宗教であり、一ミリの改ざんもゆるされないのだから。

どんな考察をしても、けっきょく、本当のところは理解しがたかった。もっともらしい考察をしたところで、「それだけで」あの、バランスのとれた知性をもった人々が、狂ったように「アベだけを叩く」という事実を、どうしても受け入れきれない。なぜだ。なぜなのだ。私の説得にも、まったく耳を貸さない。なぜ私は、彼らにこんなあつかいを受けるのか。ちょっとアベを擁護しただけで、親を殺されたような非難が飛んでくるのだ。なぜだ。なぜなのだ。

やるせない。

今はただ、ご冥福をお祈りするばかりだ。安倍晋三という稀代の政治家と、私の人生から消えていなくなった「アベガー」のみなさんに。