夢から覚めた麻原…彼は狂ってなんかいない。正気になっただけだ。

 

目が覚めると、あなたは、一匹の巨大な麻原彰晃になっていた。

なんだこれは。麻原は死んだはずだ。しかしあなたはいつのまにか麻原彰晃になって刑務所にいた。ドラマなどでよくある、入れ替わりというやつなのか。そんなばかな。これは夢だ。夢にちがいない。しかしこの夢はいつまでも覚めない。どうやらこれは現実らしいといつしか認めざるを得なくなった。

まだ死刑囚ではないらしい。時間を遡った入れ替わりか。あなたは時に裁判所に連れて行かれる。裁判ではあなたは凶悪犯罪者として扱われる。味方であるはずの弁護士にしてもそこを争う気は全く無いらしい。いや。弁護士や検事にそう扱われるのはいい。あなたは思う、どうやら私は麻原彰晃らしいのでそれは当然だろうと。イヤなのは時々元弟子が現れて真実を語ってくれ、罪を認めて償ってくれ!などというのだ。フシギなことに彼が弟子であった記憶は明瞭にあるのだ。あなたは思う、私の言うことはなんでも従ってきたお前がなんという言い様だと。今更私にそんなことを言うくらいならなぜ、指示に素直に従ってそんな犯罪をお前こそ犯したのだと。

あなたは慄然とする。過去に遡った入れ替わりなら、あなたはいずれ死刑が確定し、国家によって殺されるのだ。ちがう、私は本当は麻原じゃない!と心の中で叫んでも時間は粛々と、あなたが死刑になる未来に向かって進んでいく。

あなたがかつて何者であったのか、私は知らない。優しい家庭人であったか。猛烈な仕事人であったか。幸せな未来を夢見る若者であったか。いやもはやその記憶こそが偽の記憶であなたは本当に大量殺人凶悪テロを指示した麻原彰晃その人であるのかも知れなかった。それが本当ならまだマシだ、ともあなたは時に思うのだ。ある時期、自身の才覚で多くの弟子を従え、偉大なグルと崇められた。マスコミにもチヤホヤされた。しかし今となっては全ては、どうでもいいことでもあった。あなたが直面している現実は、今の自分があらゆる人に史上かつてない凶悪犯罪者として蔑まれ、いずれ死刑囚として命を絶たれる…これ以外にはないからである。


などという状況をリアルに想像したとき、あなたは、何を感じましたか?私なら、絶対におかしくなります。

麻原が、一人のただの人間として麻原彰晃としてのリアルな自己認識を持ったら、マトモでいられるわけがありません。テレビは言うのです、麻原は裁判当初は宗教団体の教祖として堂々と振舞っていたのに、ある時期からだんだんおかしくなったと。

テレビは言うのです、これは明らかにノイローゼだから、ちゃんと治療すれば真実を語れるはずだと。だから死刑執行は拙速だったと。私はそうは思いません。かといって詐病を疑ってるわけでもないのです。先のシミュレーションのような、マトモな人間なら誰でもノイローゼになってしまうような状況に置いた結果、ノイローゼになってしまう。これは正常な反応に過ぎないのです。

彼は裁判のどこかの段階から…おそらくは井上被告に真実を語れと言われたあたりから、自分は偉大な教団の偉大なグルである、という誇大妄想がもはや誰からも否認されていて、もはや単なる犯罪者としてしか扱われていない、という、リアルな現状認識を持たざるを得なくなったのではないでしょうか。彼はきっと、夢から覚めたのです。クソリアルな自分の現状を、突きつけられてしまったのです。

そうであるならば、彼に再びカルト教団のトップとしてその悪行を全て話せ、など、無理な相談ではないでしょうか。あなたが同じ立場だったら、そんな気力が湧きますか?私だったら無理です。私ならきっと、裁判の最中にもかかわらず塞ぎこんだり、ストレスから奇声をあげたりするでしょう。そうです。実際に麻原がやったこととほぼ同じことしかできないハズです。正気であっても…いや、正気であればこそです。

治療が、聞いて呆れます。正気に戻った人間を再び、偉大な教団の偉大なグルである自分という狂気に戻す治療など、どこにあるのでしょう?

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